東京の人
私は東京の人になったんだとしみじみ感じた出来事があった。
上京したばかりの時は、なにもかもがキラキラして見えた。
見るものすべて、目新しかった。
外出する時は、大半が友達やデートの約束だった。
めいっぱいオシャレして、東京の雰囲気に溶け込めるように、何よりも綺麗に見えるように努力した。
私は奈良県出身だった。
地方から出てくる人は皆、眩しいほどにオシャレだった。
東京という街に気を遣っているのか、都会という舞台だから着飾りがいがあるのか。
一方、東京で生まれ育った人はというと、恐ろしく普通で平凡だった。
きっと、十人並べば、一番目立たないであろう服装とオーラ。
ここは東京生まれ東京育ちの人からすると、庭なのだ。
だから、Tシャツにジーパンで十分。
最初は、東京の人ってこんなに普通なんだと驚いた。
オシャレせずに、外出するなんて、、、特に電車に乗るなんて勇気がいると思っていた。
今日、都内で電車に乗った。
薄手のパーカーに、軽いパンツ。
これから走りに行くのかとでも言わんばかりの格好で。
何も思わない、何も違和感がない。
むしろオシャレして出掛ける方が、なんだか落ち着かない気分にすらなる。
これが、数年前まではありえなかった。
それともうひとつある。
田舎が好きなのだが、ここに帰ってくると安心するのだ。
いつの間にか、住む場所ではなく遊び場だと思っていた東京が、ホームになった。
もちろん住む場所にもよるが、落ち着くのだ。
私の帰ってくる場所はここなんだと。
そう、私はいつの間にか、東京の人になっていた。
ただ、新しい出会いがあるたびに、「どちら出身ですか。」と聞かれる。
私の関西魂はまだ残ったままだ。